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可逆的選択

趣味で書いています @yadokarikalikar

映画を鑑賞する話 / した話

大学最後の春休みを謳歌したいなあ、と思って真っ先に思い浮かんだのは、映画館に行くことだった。通い始めてまだ何年も経たないが、映画館の持つ魅力にすっかり囚われてしまった。 通い慣れた劇場に赴き、購入したチケットを提示して入場すると、長くまっす…

音楽のあった風景

思い返せば、小さかった頃から音楽というものが好きだった。聴くほうはまずもって機会があまりなく、好きか嫌いかの判別もろくにつかなかったけど、歌うほうは好きだった。声変わりするまでは高い声も普通に出せたし、何より大きな声を出せることが気持ちよ…

我流ペペロンチーノ

大きめの鍋にたっぷりと水を張り、火にかけておく。 沸騰次第塩を一つまみ振りかけ、スパゲティを入れる。麺がある程度曲がるようになるまでは、丁寧に菜箸で麺同士がくっつかないように混ぜる。 しめじ、えのきを適量、にんにくを二欠けほど、鷹の爪を少し…

晩夏と茄子と

掬いあげた水が、器をかたどった手のひらから零れるようにして、目が覚めた。 夏の終わりにしては、空気はひんやりとしていた。隣を見遣ると、安らかな寝息を立てている恋人がいる。顔を寄せて、まじまじと見つめる。少しだけ間の抜けた寝顔にキスしてやりた…

彼にまつわること

飼い猫が息を引き取ったのは、軍隊の行進のように終りの見えない、梅雨のある朝のことだった。 僕は泣きこそしなかったけど、それから暫くは生活のすべてがどこか噛み合わせの悪い歯車のようにぎこちなくなってしまった。今はもう、乗り越えられていると思う…

文体模写(6/11)

「つまりあなたは、未だに手を付けてすらいないということね?」 僕の目の前にいる彼女は、音叉を用いて音程に狂いがないかを確かめる神経質な音楽家のように、僕に尋ねた。尋ねたというよりは、意味合いとして、断定した。 僕は鷹揚に頷く。というのも、そ…

「CLANNAD」というものについて

相も変わらず就職活動は佳境であって、どこも落ち着いてなどいないのだけど、久々に自発的になにかを書きたい気分になれたから、興味が消えいってしまわないうちになにかを書き付けたいと思う。 皆さんは「CLANNAD」をご存じだろうか。知っているとして、そ…

知らせるほどでもないもの

就職活動が佳境なのでブログ更新できません。 という文言をもってして更新するということはある種のパラドックスだろうな。 もうちょっとしたら多分落ち着くと思うので、暫しお待ちください

lapis lazuli

立っているだけの状態を止めて、一歩右足を前に投げ出して踵から着地する。 体幹は未だ前方に傾けられたままなので、このままなにもしなければわたしは左寄りの前方に倒れ込んでしまう。 倒れるとまた立つまでに動作と時間を要する。要すると、要された時間…

cherry blossom

生まれ変わったら桜になりたい。 春が来る度に、ぼんやりと、だけど何度もそう思う。 なぜそう思うようになったのか、きっかけは思い出せない。スーパーへ買い物にいった帰り道を唯と連れ立って歩きながら、沿道に植えられた桜並木に目をやる。 昨晩降った強…

関東旅行記1

二月末から三泊四日で関東へ旅行した。 その際に起こったことや、それに起因して発生した感情などを、一文字でも多く形として残しておこうと思い立ち、にわかに書き始める。 乱文や乱調となること請け合いではあるだろうが、これは備忘録であり、フィクショ…

睦月

いまの季節は十七時を越えるともう陽が暮れ始める。地平線の向こうにとっぷりと暮れ切ってしまうと、代わりに訪れるのは夜の暗い色だ。 一月も終盤に入ると寒気も縮みあがってしまうほど酷い。自室に備え付けた石油ストーブを点けて、暖気を放つまで手を揉ん…

コーラとサイダー

放課後の校舎の雰囲気は嫌いじゃない。 堅苦しくないというか、例えるなら紙風船のようで、空気が入っているのに弾力はないというか、そんな感じ。 その中を自由に過ごせるなら、なにも言うことなんかないのに。 廊下を歩きながら、小さな溜め息を吐く。抱え…

内省的日記

未来の自分に手紙をしたためたことがあるひとが、この文章に目を通すひとの中にどれほどいるだろうか。 その大方は若気の至りに依るものかもしれない。自分だって、何年も前にはなるが、二十歳の自分に宛てて書いたことがある。二十歳をとうに過ぎたいまでも…

大きな寝床

ぜんぶ美紗都が悪い。 周りの目を引いてしまうほど可愛いのも、大勢の中から聞き分けられるほど澄んだ声も、ほっそりとしたその身体も、ぜんぶ。 そんな彼女を前にすると私なんて霞んで見えてしまうかもしれない。だけど私は彼女の恋人なのだ。私は美紗都と…

彼女と彼とクリスマス2

「今日は何の日でしょう」 「クリスマスだろ」 「そうだったの?」 「お前はどんな答えを想定していたんだよ」 「サンタさんが世界中を駆けずり回る日だとばかり」 「言い方って大事だと思うんだよ」「動物園行こう」 「急にどうして」 「去年は水族館だった…

prototype,cuisine

「水炊きは油揚が、ばり美味しいんよ」 「油揚が、ですか」 「疑いようやろ。ほれ、食べりんしゃい」 彼女が器に煮立った具材をよそってくれる。よそった上からポン酢を一回し分だけかけて、手渡してくれた。 まあ油揚はたしかに旨いけど、と思いながら器を…

彼女と彼と占い

「占ってあげよっか」 「急にどうしたの」 「なに占いがいい?」 「無視かな?」 「星座占いにするね」 「なんでもいいけど」 「それじゃあね……射手座生まれのきみは今日一日幸せに過ごせます」 「そりゃ良かった。射手座生まれの誰かに言ってやってくれ」「…

二分三十秒のご馳走

「三枚交換します」 「うええ……じゃあ一枚交換で」 「コールします。君は?」 「……コールで」 「ストレートフラッシュです」 「先輩強すぎませんか」 「君の手配は?」 「……フラッシュです」 「私の勝ちですね」 「ぐぬぬ」「こんな時間ですか」 壁に掛けら…

春の巻きもの

「春巻きって、春を巻いてるんでしょうか?」 先輩が急にそんなことを言うものだから、俺は思わず彼女の方を見た。 「……違うと思いますが」 俺は直感でそう答える。 「では、なぜそのような名前なのでしょうか」 先輩はどうにも腑に落ちないといった表情を浮…

四月(4/4)

自分の部屋の天井をぼんやりと眺めながら、俺はたゆたう意識とともに寝転がっている間仕切りを開けて入ってくる佐月は、手に持つ盆に何かを乗せてコップ一杯の水と、湯気のたつ炒飯お前という奴は。勝手に台所を使うなそんな言い方するんだったら、もう作ら…

四月(3/4)

身体が重力を遠ざけたより精確に描写するなら垂直抗力が霧散した左足は虚空を踏み締め、傾く体幹は棒倒しを彷彿とさせる 「先輩!!」右腕を掴む心許ない感触と眼鏡の奥に煌々と輝く瞳、圧倒的な生の脈動強引に引き寄せられて空いた手を地につく 肩で息をす…

四月(2/4)

青ざめた気色で水瀬は要塞を後にする よもや自分は霊現象とやらに遭遇したのではないか?とでも言いたげな様子で霊などこの世界に一欠片も存在し得ない棟内にすら廃材が溢れる要塞でも例外はなくそうだ あれはたしかに佐月だが 本当の意味の佐月ではない 動…

四月(1/4)

正門から入るよりも南門からの方が約六分、時間を短縮して室に着く土だけで充たされ種を植えられずに置かれた鉢植えが周囲を囲むのを横目に第四号棟、誰かが面白半分に「要塞」なぞと揶揄した鉄筋へと足を踏み込む律儀に詰め込まれた機材や紙束の山をすり抜…

秘蜜の香り

かみさまが、もしも私に魔法を使えるようにしてくれるならと、最近の私はそればかり考えている。もしも願いが叶うなら、魔法は一度だけで構わない。それだけで私は永遠に救われる気がするから。彼女と初めて出会った場所は、窓の小さな学校の図書室だった。…

お弁当大作戦

私は彼のことが好きだ。 幼馴染で、家が隣で、元気だけが取り柄で、誰に対しても分け隔てなく優しくて、世界一かっこいい彼のことが。 だけど向こうは私のことをただの仲のいいお隣さんとしか捉えていないみたいで、ふざけあって笑うことはあっても、喧嘩し…

彼女と彼と危機管理

「ねえ」 「うん」 「あたし思うんだけど」 「なにを」 「ひとってすぐ死ぬよね」 「いきなりどうした」 「日常には色んな危険が潜んでるもん」 「いや、それはそうかもしれないけど」 「だからね」 「おう」 「シミュレーションをしようと思うの」 「色んな…

舞姫

現国の高校教材がこれまでにどれだけの変遷を経てきて、またこれからどれだけ経てゆくのかは私の預り知るところのものではないのだが、私が現役のそれであった頃の教材は森鴎外の舞姫であった。はじめて目を通したときのことはいまでも思い出せる。古めかし…

もしも、そのときは

「もしも僕が死んだら」 「やだ」 「もしもの話だから、大丈夫」 「それでもやだ」 不機嫌な顔をされた。彼女に死の概念を伝えようとしたが、早かったらしい。昼下がり、眩しいくらいの陽射しが窓から差し込んでいて、それを満身に受ける彼女は、花の妖精の…

2015/09/08

時間があるのと、加えて興が乗っている面も応援してか、日記を書くことにした。 元来日記など書こうとしても続かない性格の人間である自分だが、それでも18歳の5月から数ヶ月間ほぼ毎日日記をつけていたことがあった。それはいまでも勉強机(家を出た兄のお下…

記憶売買

ひと二人が横並びで入れるぐらいの狭い路地の中ほどに、胡散臭げなその店は存在した。薄汚れた暖簾を潜ると中は狭く、スチールパイプの机と木製の椅子が居心地悪げに置かれていた。机を挟んで向こう側に店主らしき男が座っていて、僕の存在に気付いた彼は目…

紫煙の奥に

運転席の扉を開けて車内に体を滑り込ませると、細切れになった煙草の香りがほんの微かに漂っている。エンジンキーを回して、まるでそうしなければならないことであるように、窓を開けた。儀礼的と言い換えてもいい。そこにはただ事実として、該当する装置を…

更新について

暫くブログの更新を止めるかもしれませんし、止めないかもしれません。止めるとなれば数ヶ月単位になるかもしれませんし、そうならないかもしれません。なぜこんなことを言いだすかといいますと、所属している文芸サークルに寄稿する原稿を練るためなんです…

あらしのよるに

何度、財布の中身を確認しても、お札が増えるなんてことはない。とはいえ、貯金や結婚資金の積み立てですっかり寒々しくなってしまった懐を見る度にそんな馬鹿らしいことをつい夢想してしまう。もっと贅沢に暮らしてみたいと思うけど、こちらが立てばあちら…

レゴ部!

南校舎は全体的に埃っぽくて汚い印象がある。建物自体が相当古いために、併設された中央校舎や北校舎と比べると自然に湧き出てきてしまう薄汚いイメージが、そうした印象を形作っている一因になっている。そんな南校舎二階、北の方角に突き当たる場所に、そ…

彼女と彼と合言葉

「ねえ」 「はい」 「合言葉を決めよう」 「なんの」 「なんでもいい」 「どゆこと」「合言葉ってろまんじゃない?」 「はあ」 「やっぱりきみもそう思ってたんだ、きぐうだね」 「二文字からどう読み取ったの」 「いい機会だし決めちゃおっか」 「別にいい…

第二回 どんとこい肝臓疾患

酒精に誘われてか、第一回の記事を読んでいただいたところもあって続きを書こうと思う。肝機能はまだまだ正常値……であることを祈りたい。普段飲んでいるお酒を挙げることにする。第一回で好きなビールを挙げてしまったがために読者の中には──といっても賢君…

鍵盤をたたく

「なんかお前のピアノは聴いてて落ち着くわ」 直樹が珍しく真面目な顔をしてそんなことを言うので、佳奈は鍵盤を弾く手を止めて、彼の方を向いた。 「どうしたの、急に」 「いや、別に。ていうか続けてよ」 「なにそれ」 照れくさそうに少しだけ笑ったあと、…

彼女と彼と怪談

「こわいはなししていい?」 「え、突然?」 「これは友達からきいたんだけどね」 「無視?」 「大学生のカップルが二人だけで夜中にお墓に行ったの。肝試ししてたのね」 「うん」 「そしたらどこかから小さい女の子の泣く声が聞こえたの」 「はい」 「それ…

第一回 どんと来い肝臓疾患

ふと、自分はお酒が好きだと思う。誰かと飲むというのも好きだが、取り分け、一人で飲むのが。 最初はチューハイだった。それから苦いと感じながらもビールに手を出し、慣れた頃にウイスキーにも手を出した。そして日本酒にも手が伸び始めている。 アルバイ…

コミュニケーションが難しいという話

「コミュニケーション障害(コミュニケーションしょうがい)は人間に身体的・精神的に不利を強いることとなる欠点が存しており、それを原因として社会などといった対人関係を必要とされる場面で十分なコミュニケーションを とることができなくなるという障害…

あかりのはなし

なにもかもの決定が急なことだったので、家からパジャマを見繕うときに手近にあったスエットを選んでしまった何ヶ月も前の自分をいまでも恨んでいる。もっと落ち着いて探せばましなものはあっただろうに、いま僕が着ているスエットは胸のところにあろうこと…

彼女と彼と公園

「旅行したい」 「お土産頼むわ」 「二人で行こうよ」 「どこに」 「行ったことないところ」 「例えば」 「天国」 「片道だわそれ」 「天国以外」 「広い」「君はなんかないの」 「温泉とか行きたいかも」 「温泉の素があるのに?」 「よくそんなこと言える…

時計針の刻む音

壁に掛けられた時計の針が午前零時を指した。 書きかけのレポートを片付けて、その場で座ったまま伸びをする。指先まで込めた力を抜いて、背もたれに身体を預ける。もう寝てしまおうか。俺はぼんやりと考える。 明日は講義が二限からなので朝は急がないけど…

2015年4月16日

2015年4月16日 朝起きる。親父が近くの病院に入院する日だったなと、リビングでもそもそと食パンを頬張る姿を見てぼんやりと思う。本当は入院するまでもなく日帰りで済むような施術らしいのだが、念には念を入れて入院とのこと、三日間。あんじょう頑張って…

塩をひとつまみ

「ねえ」 「んー」 「お腹空かない?」 「んー」 「でしょ。軽くなにか作ろうか」 「んー」 読みかけの本をたたむ。栞も挟んでないけど、何度も読んだことのある本なので別に構わない。雨降りの休日、お昼と夕方の中間地点で、私たちは二人きりで生きている…

2015/03/20 21:18:08

創作することが救いだと思って書き続けていたのに、度々起こる現象というか病症というか、創作それそのものが精神を追いやっている様に思えてならないときがあって、今がまさにそのときである。何かを削るような、そんな気概で書いている。だけどそれはきっ…

或る月の光のよく届く場所

見上げた空から、月が見下ろしてくる。 夜は色濃く更け、外気が肌に絡みついてきて生温い。夕方に降った雨が湿らせた裏通りを歩く先輩は、ついさっきまで居酒屋でしこたま飲んでいたにも関わらず酔った気配を微塵も見せていなかった。 「わぐ君」 俺から見て…

今なお暮れつつある

僕が子供の頃から飼っていた猫が死んだ日の晩に、夢をみた。 内容は、一両しかない電車に揺られてどこかへ向かうというだけのもので、僕は同じ夢を以前に二回ほどみたことがある。一度目は僕がまだ小学生だった頃、大好きだったキャラクタのプリントが施され…

清い流れの中で

陽光を反射してきらきらと輝く水に浮かぶ肢体を見た途端、僕の心は、雲散霧消してその内の何割かは水に溶け込み、彼女の身体を纏うように。彼女は最期まで水の傍にいたがった。病的といっても良かった。どこかに遊びに行っても、清い水の流れや溜まり場を見…