可逆的選択

趣味で書いています @yadokarikalikar

紫煙の奥に

運転席の扉を開けて車内に体を滑り込ませると、細切れになった煙草の香りがほんの微かに漂っている。エンジンキーを回して、まるでそうしなければならないことであるように、窓を開けた。儀礼的と言い換えてもいい。そこにはただ事実として、該当する装置を…

更新について

暫くブログの更新を止めるかもしれませんし、止めないかもしれません。止めるとなれば数ヶ月単位になるかもしれませんし、そうならないかもしれません。なぜこんなことを言いだすかといいますと、所属している文芸サークルに寄稿する原稿を練るためなんです…

あらしのよるに

何度、財布の中身を確認しても、お札が増えるなんてことはない。とはいえ、貯金や結婚資金の積み立てですっかり寒々しくなってしまった懐を見る度にそんな馬鹿らしいことをつい夢想してしまう。もっと贅沢に暮らしてみたいと思うけど、こちらが立てばあちら…

レゴ部!

南校舎は全体的に埃っぽくて汚い印象がある。建物自体が相当古いために、併設された中央校舎や北校舎と比べると自然に湧き出てきてしまう薄汚いイメージが、そうした印象を形作っている一因になっている。そんな南校舎二階、北の方角に突き当たる場所に、そ…

彼女と彼と合言葉

「ねえ」 「はい」 「合言葉を決めよう」 「なんの」 「なんでもいい」 「どゆこと」「合言葉ってろまんじゃない?」 「はあ」 「やっぱりきみもそう思ってたんだ、きぐうだね」 「二文字からどう読み取ったの」 「いい機会だし決めちゃおっか」 「別にいい…

第二回 どんとこい肝臓疾患

酒精に誘われてか、第一回の記事を読んでいただいたところもあって続きを書こうと思う。肝機能はまだまだ正常値……であることを祈りたい。普段飲んでいるお酒を挙げることにする。第一回で好きなビールを挙げてしまったがために読者の中には──といっても賢君…

鍵盤をたたく

「なんかお前のピアノは聴いてて落ち着くわ」 直樹が珍しく真面目な顔をしてそんなことを言うので、佳奈は鍵盤を弾く手を止めて、彼の方を向いた。 「どうしたの、急に」 「いや、別に。ていうか続けてよ」 「なにそれ」 照れくさそうに少しだけ笑ったあと、…

彼女と彼と怪談

「こわいはなししていい?」 「え、突然?」 「これは友達からきいたんだけどね」 「無視?」 「大学生のカップルが二人だけで夜中にお墓に行ったの。肝試ししてたのね」 「うん」 「そしたらどこかから小さい女の子の泣く声が聞こえたの」 「はい」 「それ…

第一回 どんと来い肝臓疾患

ふと、自分はお酒が好きだと思う。誰かと飲むというのも好きだが、取り分け、一人で飲むのが。 最初はチューハイだった。それから苦いと感じながらもビールに手を出し、慣れた頃にウイスキーにも手を出した。そして日本酒にも手が伸び始めている。 アルバイ…

コミュニケーションが難しいという話

「コミュニケーション障害(コミュニケーションしょうがい)は人間に身体的・精神的に不利を強いることとなる欠点が存しており、それを原因として社会などといった対人関係を必要とされる場面で十分なコミュニケーションを とることができなくなるという障害…

あかりのはなし

なにもかもの決定が急なことだったので、家からパジャマを見繕うときに手近にあったスエットを選んでしまった何ヶ月も前の自分をいまでも恨んでいる。もっと落ち着いて探せばましなものはあっただろうに、いま僕が着ているスエットは胸のところにあろうこと…

彼女と彼と公園

「旅行したい」 「お土産頼むわ」 「二人で行こうよ」 「どこに」 「行ったことないところ」 「例えば」 「天国」 「片道だわそれ」 「天国以外」 「広い」「君はなんかないの」 「温泉とか行きたいかも」 「温泉の素があるのに?」 「よくそんなこと言える…

時計針の刻む音

壁に掛けられた時計の針が午前零時を指した。 書きかけのレポートを片付けて、その場で座ったまま伸びをする。指先まで込めた力を抜いて、背もたれに身体を預ける。もう寝てしまおうか。俺はぼんやりと考える。 明日は講義が二限からなので朝は急がないけど…

2015年4月16日

2015年4月16日 朝起きる。親父が近くの病院に入院する日だったなと、リビングでもそもそと食パンを頬張る姿を見てぼんやりと思う。本当は入院するまでもなく日帰りで済むような施術らしいのだが、念には念を入れて入院とのこと、三日間。あんじょう頑張って…

塩をひとつまみ

「ねえ」 「んー」 「お腹空かない?」 「んー」 「でしょ。軽くなにか作ろうか」 「んー」 読みかけの本をたたむ。栞も挟んでないけど、何度も読んだことのある本なので別に構わない。雨降りの休日、お昼と夕方の中間地点で、私たちは二人きりで生きている…

2015/03/20 21:18:08

創作することが救いだと思って書き続けていたのに、度々起こる現象というか病症というか、創作それそのものが精神を追いやっている様に思えてならないときがあって、今がまさにそのときである。何かを削るような、そんな気概で書いている。だけどそれはきっ…

或る月の光のよく届く場所

見上げた空から、月が見下ろしてくる。 夜は色濃く更け、外気が肌に絡みついてきて生温い。夕方に降った雨が湿らせた裏通りを歩く先輩は、ついさっきまで居酒屋でしこたま飲んでいたにも関わらず酔った気配を微塵も見せていなかった。 「わぐ君」 俺から見て…

今なお暮れつつある

僕が子供の頃から飼っていた猫が死んだ日の晩に、夢をみた。 内容は、一両しかない電車に揺られてどこかへ向かうというだけのもので、僕は同じ夢を以前に二回ほどみたことがある。一度目は僕がまだ小学生だった頃、大好きだったキャラクタのプリントが施され…

清い流れの中で

陽光を反射してきらきらと輝く水に浮かぶ肢体を見た途端、僕の心は、雲散霧消してその内の何割かは水に溶け込み、彼女の身体を纏うように。彼女は最期まで水の傍にいたがった。病的といっても良かった。どこかに遊びに行っても、清い水の流れや溜まり場を見…

変わるということ

※これは、既成の原作に基づいて書かれています。一部、創作というよりは写しに近いものであることを先に書いておきます。 ──────────────────────ひきわりの納豆は、贔屓目に見ても美味しくない。いや、この場合は贔屓目に食べても、になるのか。 自分で考え…

病室にて

「おおよそ命というものはそれ自体に形を取らないがために、その有無の判別というものは難しい。たとえば死の判断。脳が機能を止めるか、心臓が拍動を止めるか、人が死ぬという定義は幾つかある。そう、失える瞬間がわかりにくければ、生れ落ちる瞬間も同じ…

彼女と彼と暇を潰す

「山手線げーむ」 「急にどうした」 「したい」 「そうか」 「しようよ」 「ルールがわからん」 「おしえる」 「頼む」 「まずはお祈りから」 「お祈り」 「山手線の神様に感謝する」 「タンマ」 「なに」 「これって必要か」 「いるかいらないかでいうとい…

風景描写

「おはよう」 「よーっす」 「寝癖やばいよ」 「まじ?」 「竜巻みたい」 「やばいな」 「あたしの櫛つかう?」 「どうせ戻らないしいいよ」中学の頃から割と上背があったのだが、高校に入ってからまた伸びて、いま現在二年次で179cmになった。横を歩く幼馴…

死と創作について思うこと

死というものについて、僕は尋ねられたこともなければ克明に想像したこともない。だから、いざそれがどんなものかを考えようとしてみたところで、実感の湧かない心許なさはそのまま僕の思考を緩やかに締め上げる。死、そればかりはどうにも体感しようのない…

無題

名作と呼ばれるものは、多くの人がそれを名作だと認めたから名作なのだと思う。当たり前だけど、一般的に普及していないものでも僕の琴線に触れるものは、僕にとって名作になる。 それほど知名度が低いわけではないけど、高いともいえない程度の漫画がひとつ…

いっぱい食べる君がすき

暖簾を手でよけて、重い引き戸をスライドさせる。お世辞にも広いとはいえない店内にはカウンターに男性客が一人いるだけで、運が良い、今日は空いている。いつも座るテーブルに腰掛けて、上着を脱いで脇に置く。調理場の奥からおしぼりを手に、店主が現れた…

初機関紙に喜び浮かれている

明日は我が大学にて機関紙の製本作業を執り行う予定にあります。いやあ自分の書いたものが冊子になるなんて幸せもんです。 ちなみに書いたものは、自身、行ったこともない九州は博多生まれのお姉さんと洒落たお店で喋くるというただそれだけのお話です。 興…

彼女と彼と休日

「ねえ」 「うん」 「ひまだからひまゲームしようよ」 「説明を頼む」 「私のひまをつぶしてあそぶあそび」 「どこまでもお前本意だなあ」「ピザって10回言ってみ」 「ピザピザピザピザピザピザピザピザピザピザ」 「じゃあここは?」 「ピサロ」 「いやそん…

なう(2015/01/20 21:44:52)

これからテスト期間なのでしばらく更新停止しま(ここで途切れることによって更新停止という言葉のリアルタイム性を醸し出す)最近、面白いことはないかと探してはいるんですけど、見つかんないもんですね。村上春樹ばかり読んでます

年最後の挨拶

こんばんは、西院です。 大晦日ですね。これを読んでいるあなたはもしかすると年を越えているのかもしれませんが、その方にはあけましておめでとうと言っておきます。今年は自分にとって躍進の年だったと思います。大学の文芸部の機関誌に寄稿し載ることも叶…