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可逆的選択

趣味で書いています @yadokarikalikar

これは病だな、と思った。何度拭ってもとどまる様子のない涙をこぼしながら、病院に行くなら内科になるのだろうか、と彼女に言った。それよりも精神科じゃないか、と返される。それもそうだと思った。
いつの間にか俺は心を病んでしまっていたらしい。特段、なにかに辛さを感じることはなかったのに、辛いと感じる部分が麻痺するほど状況は酷かったのだろうか。自然、溜息が漏れてしまう。すると落ち沈む心象とリンクしてさらに涙は堰を切って溢れる。
「そんなに泣いてたら水分不足になるから」
そう言って彼女は水入りのグラスを手渡してくれる。たしかに喉はからからに乾いていた。それを飲みながら彼女の優しさに心を打たれたのか、俺はしゃくり上げながら子供のように泣いてしまう。どうやら感情が昂るといけないらしい。
外面とは裏腹に落ち着きを取り戻してきた俺の内側で、どう対処したものかと思案する。
向精神薬とかでなんとかなる代物だろうか。今、冷静にものを考えられているのにそれと関係なく涙が出ているのだから、精神というよりは肉体に疾患がありそうなものだ。とはいえ、感情の位相の推移に作用して泣いてしまうのなら、やはり精神にも疾患があるように思える。

どうすればいいんだろう、これから。そんなことを考えつつ、しばらくその場に座っていると、彼女が俺の隣に腰掛けて、俺の手を握る。
「大丈夫。涙が止まらなくなっても、二人でいればなんとかなるよ」
こっちの事情も知らないくせによく言えたものだ。これ以上俺を泣かせてどうするんだ。
「それに、泣き顔の君もかわいいからね」
そう言って彼女は俺にキスをした。

しばらくずっと二人で座っていると、涙は止まった。心の安寧が止めてくれたのだろう。つい嬉しく感じてしまい、少しだけ焦ったが、もう涙は出なかった。彼女のお陰で症状が収まったのだ。俺は隣の彼女に向かって礼を述べる。
彼女は滂沱の涙を流していた。