映画を鑑賞する話 / した話
大学最後の春休みを謳歌したいなあ、と思って真っ先に思い浮かんだのは、映画館に行くことだった。通い始めてまだ何年も経たないが、映画館の持つ魅力にすっかり囚われてしまった。
通い慣れた劇場に赴き、購入したチケットを提示して入場すると、長くまっすぐ伸びた通路がおれを待っている。映画館特有の匂いがする。知らない人の車に乗ったような、少しそわそわする感じの。スクリーンに入り、薄暗い中、自分の席に座り込む。
上着を脱いで、膝にかける。携帯はこの時点で電源を切り、しまっておく。観るにあたってなるべくストレスの発生しない環境を作ることは、映画を鑑賞する際に最も重要だといえる。
やがてスクリーンにあかりが灯り、他の映画の宣伝が始まる。これも含めて映画だと思う。挟み込まれる一般企業のコマーシャルはここ数年同じ会社のものしか流れておらず、ゆえにそれを目にすると「映画に来たんだなあ」と実感する。
やがて照明が段階的に落とされてゆき、映画が始まる。
始まる瞬間が、たまらなく好きだ。
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以下、ドラえもん劇場最新作について言及します。
観る予定のある方は、読まない方がいいかもしれません。
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ドラえもんの映画を劇場で鑑賞したのは、初めてかもしれない。
VHSでは何本も見た経験はあるのだが、大きなスクリーンで観るのとの違いは、想像できなかった。そもそも劇場版に限らず、ドラえもんというコンテンツに最後に触れたのは、十年以上も前のことだった。
声優が変わり、昔の映画をリバイバルした映画が出ているというのが、現在のドラえもんに対して抱いていたイメージだった。
そもそもどうしてそんなドラえもんの映画を観に行こうと思ったかであるが、ひとえに親友が勧めてくれたからだ。最近のドラえもん映画はすごいぞ、と。
その彼がどうしてドラえもん映画を観るようになったかは知らないが、なにかと趣味嗜好の合う彼が真剣に勧めてくれるので、ひとつここは観てみるかということになった次第だった。
世辞は一切抜きにしても、個人的には傑作だったと思う。
内容に言及する前に、見ていただきたいのが、映画のイメージボードである。全七種類存在するのだが、これが憎らしいほど心にくる。
その内の四枚を上に乗せたのだが、これのなにがいいって、ストーリーのフレーバーが一目でわかることだ。荘厳で神秘的な南極の景色と、テキストから伺える物語の展開。ソリッドでないタッチで描かれたボードに魅了されてしまった。
映画本編の内容も、個人的には大変満足のいくものだったが、観ているうちにどうして自分がこんなにも楽しめているのかがわかった気がした。
幼少期に好きだった作品が、現代の映像技術によって鮮やかに描かれていることが、嬉しくないはずもなかった。
ひみつ道具のデザインに説得力があり、その描き方にセル画にはできない瀟洒さがあり、それらが生み出す効果にリアルさがあった。こんな道具をこういった風に使用すればこういった結果、現象を引き起こすといったことが、丁寧な絵や説明でもって表現されることに、感動さえ覚えた。
現在のドラえもん映画のターゲット層は、間違いなく現在の子供だろう。しかし、今作は少なくとも大人が観ても楽しめる内容だろうと思う。
粗を探せば幾らでも見つかる映画だと思う。それなのに、こんなにも気にならないのは、単純にこの作品が好みなのだろう。
雪と氷の描き方、音響、ストーリー。どれを取っても美しく、それでいてそれらを押し付けていない感じが良かった。十万光年先の星を想いながら、ここいらで筆を置く。