可逆的選択

趣味で書いています @yadokarikalikar

2016-01-01から1年間の記事一覧

我流ペペロンチーノ

大きめの鍋にたっぷりと水を張り、火にかけておく。 沸騰次第塩を一つまみ振りかけ、スパゲティを入れる。麺がある程度曲がるようになるまでは、丁寧に菜箸で麺同士がくっつかないように混ぜる。 しめじ、えのきを適量、にんにくを二欠けほど、鷹の爪を少し…

晩夏と茄子と

掬いあげた水が、器をかたどった手のひらから零れるようにして、目が覚めた。 夏の終わりにしては、空気はひんやりとしていた。隣を見遣ると、安らかな寝息を立てている恋人がいる。顔を寄せて、まじまじと見つめる。少しだけ間の抜けた寝顔にキスしてやりた…

彼にまつわること

飼い猫が息を引き取ったのは、軍隊の行進のように終りの見えない、梅雨のある朝のことだった。 僕は泣きこそしなかったけど、それから暫くは生活のすべてがどこか噛み合わせの悪い歯車のようにぎこちなくなってしまった。今はもう、乗り越えられていると思う…

文体模写(6/11)

「つまりあなたは、未だに手を付けてすらいないということね?」 僕の目の前にいる彼女は、音叉を用いて音程に狂いがないかを確かめる神経質な音楽家のように、僕に尋ねた。尋ねたというよりは、意味合いとして、断定した。 僕は鷹揚に頷く。というのも、そ…

「CLANNAD」というものについて

相も変わらず就職活動は佳境であって、どこも落ち着いてなどいないのだけど、久々に自発的になにかを書きたい気分になれたから、興味が消えいってしまわないうちになにかを書き付けたいと思う。 皆さんは「CLANNAD」をご存じだろうか。知っているとして、そ…

知らせるほどでもないもの

就職活動が佳境なのでブログ更新できません。 という文言をもってして更新するということはある種のパラドックスだろうな。 もうちょっとしたら多分落ち着くと思うので、暫しお待ちください

lapis lazuli

立っているだけの状態を止めて、一歩右足を前に投げ出して踵から着地する。 体幹は未だ前方に傾けられたままなので、このままなにもしなければわたしは左寄りの前方に倒れ込んでしまう。 倒れるとまた立つまでに動作と時間を要する。要すると、要された時間…

cherry blossom

生まれ変わったら桜になりたい。 春が来る度に、ぼんやりと、だけど何度もそう思う。 なぜそう思うようになったのか、きっかけは思い出せない。スーパーへ買い物にいった帰り道を唯と連れ立って歩きながら、沿道に植えられた桜並木に目をやる。 昨晩降った強…

関東旅行記1

二月末から三泊四日で関東へ旅行した。 その際に起こったことや、それに起因して発生した感情などを、一文字でも多く形として残しておこうと思い立ち、にわかに書き始める。 乱文や乱調となること請け合いではあるだろうが、これは備忘録であり、フィクショ…

睦月

いまの季節は十七時を越えるともう陽が暮れ始める。地平線の向こうにとっぷりと暮れ切ってしまうと、代わりに訪れるのは夜の暗い色だ。 一月も終盤に入ると寒気も縮みあがってしまうほど酷い。自室に備え付けた石油ストーブを点けて、暖気を放つまで手を揉ん…

コーラとサイダー

放課後の校舎の雰囲気は嫌いじゃない。 堅苦しくないというか、例えるなら紙風船のようで、空気が入っているのに弾力はないというか、そんな感じ。 その中を自由に過ごせるなら、なにも言うことなんかないのに。 廊下を歩きながら、小さな溜め息を吐く。抱え…

内省的日記

未来の自分に手紙をしたためたことがあるひとが、この文章に目を通すひとの中にどれほどいるだろうか。 その大方は若気の至りに依るものかもしれない。自分だって、何年も前にはなるが、二十歳の自分に宛てて書いたことがある。二十歳をとうに過ぎたいまでも…

大きな寝床

ぜんぶ美紗都が悪い。 周りの目を引いてしまうほど可愛いのも、大勢の中から聞き分けられるほど澄んだ声も、ほっそりとしたその身体も、ぜんぶ。 そんな彼女を前にすると私なんて霞んで見えてしまうかもしれない。だけど私は彼女の恋人なのだ。私は美紗都と…