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可逆的選択

趣味で書いています @yadokarikalikar

prototype,cuisine

「水炊きは油揚が、ばり美味しいんよ」
「油揚が、ですか」
「疑いようやろ。ほれ、食べりんしゃい」
彼女が器に煮立った具材をよそってくれる。よそった上からポン酢を一回し分だけかけて、手渡してくれた。
まあ油揚はたしかに旨いけど、と思いながら器を受け取ると、彼女はにこにこしながらこちらを見つめている。
言われたとおりに出汁を吸い込んだ油揚を食べてみると、噛めば噛むほど染みた鶏の味が溢れ出てきて、これは旨い。
「うち実家では肉団子と一緒に豚バラも入れとるけ、野菜と一緒にいったらもう最高やけな?」
それなら、と次は白菜と豚バラをまとめて口に含む。
目を見開いた。
はっきりとした食感の白菜の中から柔らかな肉が顔を覗かせて、全く飽きがこない。豚肉の白い脂身が白菜に引き立たされていて、そこに出汁が上手く絡む。一口食べてから、箸が止まらなくなってしまった。
「な、な、最高じゃろ?」
俺の反応を見て、自分のことのように嬉しそうに笑いながら、彼女が話しかける。
俺は口いっぱいに鍋の具材を詰め込んでいるので話すことができず、何度か頷くので精一杯だった。
彼女も幸せそうな顔をして鍋を食べ始める。
「水炊きは使う具材によってまた味が変わるき、色んな食べもので試すんがよか」
榎茸をひと束、掴む。そのまま口に運ぶ。しゃきしゃきとした歯ごたえがたまらない。
次は肉団子を掴む。齧ってみる。肉の挽き加減がこれまた絶妙で、食べごたえがあって、こいつもたしかに旨いには違いないのだが、如何せん熱い。
口の中で肉団子をたらい回しにする。
「そこでビールを飲むんよ」
すぐに缶を仰いだ。少し温くなった、しかし十分まだ冷たいビールが喉を通り越す。熱さが瞬時に快感に変わる。思わず唸り声が出てしまった。
「わぐ君見よるといつもよりお酒が美味しかよ。次は水餃子いこか」
彼女が微笑みながら鍋をつつく。しばらく無中になって鍋を食べた。