可逆的選択

趣味で書いています @yadokarikalikar

睦月

 いまの季節は十七時を越えるともう陽が暮れ始める。地平線の向こうにとっぷりと暮れ切ってしまうと、代わりに訪れるのは夜の暗い色だ。

 一月も終盤に入ると寒気も縮みあがってしまうほど酷い。自室に備え付けた石油ストーブを点けて、暖気を放つまで手を揉んで待つ。出力は最大に設定している。いわゆるファンヒーター型のように即時的には点かないので、じんわりと熱を持つようになるまでに数分はかかる。その間は珈琲を啜ったりSNSを確認したりする。

 ストーブが十二分に暖まってきたら出力を絞る。

 自室の電灯は切れてしまっていて点かない。そうなってからもう随分長い時間が経つ。別になくとも生活を送れてしまうので、特に変えなくてもよいのでは、と思うようになった。

 なので、夜間自室にいるときはデスクトップかストーブの灯りがなければ殆どなにも見えない。あまり夜間に本は読まない。

 ストーブの燃焼するにおいが好きで、嗅ぎすぎるのはよくないというのはわかるし、まめに換気をしなければ中毒症状を起こすというのもわかってはいるのだが、止められない。灯油を燃やす、ちりちりという音も好きだ。なんというか、趣がある。また、時折まるで灯油を呑み込んでいるかのような、こくりこくりという音を立てることもある。こうなると自分には、ストーブがただのストーブではないとさえ思えてしまう。

 ストーブの中芯が赤熱しているのを眺めていると、しばし時間の経過を忘れることがある。古来からひとは火を見つめていると落ち着くという話を耳にしたことがある。その類だろうと思う。

 夜は長い。

 酒と衣服と寝床とパソコンぐらいしかない簡素な部屋で、今日も俺はストーブを眺める。